市場との少額実験を経て、私たちはようやく波打ち際まで戻ってくることができました。しかし、個別の波を乗りこなすスリルだけでは、家族の未来という大きな船を運ぶには心許ないと感じていました。
投資の数式において、私たちがコントロールできる最大の変数は「時間」です。
この変数を最大化するために、私たちは感情を一切介在させない中長期の積立システムを構築することにしました。それは、かつての失敗から学んだ、退屈なほど合理的なルールへの回帰でした。
■ 理系夫婦が陥る「100点満点」の罠
このシステムを設計する際、私たちのリビングではある理論のぶつかり合いが起きていました。
夫:期待値を最大化するなら、債券なんて不要じゃないか? 株式100パーセントのポートフォリオこそが、長期的には100点満点の正解のはずだ。
妻:理論上はそうかもしれないけど、私たちはプロの投資家じゃないのよ。暴落した時にその100点満点の理論を信じきれる自信、本当にある?
夫:今は相場が冷え込んでいる。積立じゃなくて、1年分を一発投下したほうが効率的だ。
研究者・技術者として日々のデータを扱う私たちにとって、効率を求めるのはもはや本能です。しかし、自分たちが「賢い素人」であるという自覚が、かえってシンプルな正解を遠ざけていました。
■ 中途半端な自信という最大のノイズ
私たちは認めなければなりませんでした。どれだけ本を読み、理論を武装したところで、実生活におけるリソースは有限だということを。
研究者・技術者として日々の業務に追われ、さらには中学受験の検討という重要なプロジェクトを抱える生活。個別株や相場を深く調査し続けるには、私たちの時間はあまりに不足していました。 自分なら市場の歪みを見つけられるかもしれないという中途半端な自信は、ただのノイズでした。本業や育児のパフォーマンスを維持しながら、投資でプロと渡り合うのは、設計として無理があったのです。
■ 毎月、淡々と買い続けるというアルゴリズム
紆余曲折を経てたどり着いたのは、感情や予測を一切挟まず、毎月決まった日に、決まった額を、淡々と買い続けるという極めて簡素な仕組みでした。
大切なのは、市場がどう動こうと、私たちの生活がどう変わろうと、この積立を止めないこと。 これは感情的に怖くて止めてしまうという話ではなく、家計のフローの中に投資を完全に組み込み、呼吸をするように資金を市場へ送り込み続けるということです。
市場に居続ける時間の長さこそが、複利というエンジンを最大化させる唯一の燃料。私たちは、一発逆転の満点を狙うことを捨てました。
■ 80点の配分がもたらす自由
最終的に決めたのは、全世界株式(オルカン)を軸に、自分たちが少しだけ楽しめる程度の傾斜をつけた、いわば80点のポートフォリオです。
理論上の最適解(100点)を追い求めて、日々の株価に一喜一憂し、貴重な時間を分析に費やすのは、私たちの生活において本来の目的を見失うことと同義でした。 あえて満点を狙わず、システムに運用を丸投げする。それによって浮いた時間を、Edu(教育)やBook(教養)という、より確実性の高い自己投資へ再配置する。この80点の勇気こそが、不確実な未来を楽しみながら歩き続けるための、理系夫婦なりの最適解だったのです。
