【Invest #05】銘柄選定の「過学習(オーバーフィッティング)」 —— 100行のエクセルが導いた皮肉な結論

「分析すればするほど、正解から遠ざかる」というバグ

個別株という実験枠を設けた私たちは、さっそく「博士の意地」を見せるべく、独自のスクリーニングを開始しました。収益性、成長性、キャッシュフロー……ありとあらゆる変数をエクセルに叩き込み、自分たちだけの「最強銘柄」を導き出そうとしたのです。


: 「見てくれ。主要30項目の数値を重み付けして、過去5年の推移を多角的に分析した結果、この3銘柄が理論上の最適解になったよ」

: 「……すごいわね。でもこれ、分析項目を増やしすぎて、過去のデータに合わせすぎている(過学習している)だけじゃない? 将来の不確実性という変数が、この複雑な数式に耐えられるかしら」

理論上の「三拍子」が揃う銘柄は、この世に存在しない

私たちのエクセルが導き出した「理想の銘柄」の条件は、極めて強欲なものでした。

割安性:PBRやPERが歴史的・業界的に見て低水準である

健全性:自己資本比率が高く、業績が右肩上がりである

市場評価:現在の株価が、理論上の企業価値を大幅に下回っている

しかし、いざフィルターをかけてみると、検索結果は「0件」。 すべてが良い銘柄を探すのは、砂漠でコンタクトレンズを探すような作業でした。結局、何かを妥協して「準最適解」を選ばざるを得ない。その「妥協の変数」こそが、投資の本質であることを痛感しました。

マクロ分析を無効化する「ドメイン」の壁

さらに、データ分析の大きな落とし穴に直面しました。それは、「業界ごとの数値感(ドメイン知識)」を無視したマクロ比較の無意味さです。


: 「この建設株、PBRが0.5倍を割っている。IT銘柄と比較したら、異常なほどのお宝銘柄に見えるぞ」

: 「ちょっと待って。建設業界は重機や資材、不動産といった『動かしにくい資産』を多く抱える構造上、PBRが低く据え置かれがちなの。高成長期待が反映されるITセクターの物差しで測っても、それは業界の標準(ベースライン)が違うだけよ」

背景にある資本効率や商習慣を無視して、全業界共通の数式でスクリーニングしても、それは「意味のない相関関係」を追いかけているに過ぎませんでした。

理論と現実のデカップリング(乖離)

私たちが最も打ちのめされたのは、「良い銘柄が必ずしも上がるとは限らない」という、相場の非情な仕様でした。

どれだけ業績が良く、指標が割安であっても、それが「市場のニュース」になり、人々の期待を集めない限り、株価はピクリとも動きません。むしろ、私たちが「理論上、上がるはずだ」と期待した瞬間に、株価は逆方向へ全力疾走することさえあります。

「分析の深さ」と「リターンの高さ」は、決して比例しない。

私たちが陥ったのは、データをこねくり回すことに没頭し、市場の「生身の体温(期待と失望)」を忘れてしまうという失策でした。どれだけ精緻なモデルを組んでも、市場の気まぐれという巨大なノイズの前では、私たちの100行のエクセルはあまりに無力でした。

私たちは、再び自らの「知性の傲慢」を修正し、理論と現実の深い溝を埋めるための「新しい変数」を探し始めることになります。

振り返り

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免責事項 ※本記事は個人の意思決定プロセスを記録したものであり、特定の投資手法や銘柄を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。

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